『自分を探さない旅』

自分を探さない旅

016『自分を探さない旅

■2012年6月刊/定価1,680円
■平凡社


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バックパックを背負わない放浪。なぜ人は旅に出るのか? 「自分探し」って何? 旅について考え続けた「卒業旅行」の記録。タイ、インド、ブータン、東京を舞台にした長編旅行記であり、私小説であり、旅行論であり、生き方本でもある一冊。旅行作家としての活動の転機になった作品です。

■まえがき全文(PDF)

■刊行に寄せて(2012年5月29日・FBページより)

昨日色校を戻し終え、作業がすべて終了した。いよいよ発売が迫ってきたので、宣伝をしなければと思い立った。原稿を書き上げたのが昨年暮れ、企画着想からは1年半以上経っている。長い旅のようだった。話も長くなりそうだ。

説明の難しい本である。書くのにも難儀した本だった。ガイドブックではない。旅行術のような、攻略本的な要素もない。読み方によっては、もしかしたら幾分かは旅の参考になる話も含まれるかもしれないが、書いた側からするとそういった意図は今回はとくになかった。

いわゆる攻略本的なものとしては、近著だと『スマートフォン時代のインテリジェント旅行術』(講談社)という本を昨年刊行した。さらに現在も、旅行術系の新しい本の原稿を書いているところだ。ジャンルとしては「旅行実用書」とでも言えば良いのだろうか。それはそれとして、書くネタがある限りは引き続きリリースしていきたい気持ちはある。

一方で、本書である。『~インテリジェント旅行術』と比べると、我ながら実に泥臭い内容の本に仕上がった実感がある。青臭いと言い換えてもよいかもしれない。帯に担当編集者が入れたキャッチコピーには「長編旅行記」と記されている。強いてジャンル分けするなら、そういうことになるのだろう。実際、2011年に旅したタイ、インド、ブータンの話が主軸となっている。その部分に関して言うと、王道の「旅行記」であることは疑いようがない。ただ最初に補足しておくと、旅行記ではあるものの、必ずしも旅行記ではない。旅とは直接関係のない話も含まれているからだ。それに出来事を羅列するだけではなく、珍しく少し真面目に「旅」について考え、それらを随所に盛り込んでもいる。

少し気取って「ノンフィクション」などと呼ぶとどうだろうか。これも間違いではない。旅行記というジャンル自体、ノンフィクションに該当するわけだし、フィクション、つまり創作ではないとなると必然的にノンフィクションと定義付けされる運命にあるのは理解できる。

創作ではないものの、書き方の手法としては、どちらかといえばノンフィクションより小説に近いかもしれない。今回はあくまでも物語としてまとめることにこだわった。何を書くか、だけでなく、どう書くかで真剣に頭を悩ませ、活字と格闘した。僕自身の個人的な話も容赦なく書き綴ってしまっているから、その意味では「私小説」と言えなくもないが、一般的に私小説と呼ばれる本と読み比べると、本書を私小説とするのはいささか乱暴な気もする。

たぶんジャンル分けしようとするから、話がややこしくなるのだろう。より広い括りで「旅本」として見たとしても、既存のものには見かけないタイプの一冊になった手応えがある。少なくとも僕のこれまで出してきた本とはちょっと違う。似たような本がないから説明が難しい。

ボリュームは原稿用紙400枚近くと、確かに「長編」に違いない。最初はもっと長かったが、断腸の思いで削っても結局300ページを超えた。「新境地に挑む」などという帯のコピーは大仰だし、読者の方々には軽い気持ちで手にとって頂きたいのはいつも通りだが、書き手としていつもより肩の力が入っていることは自覚している。

     *     *     *

話は変わるが、僕は書き手であると同時に読み手でもある。どんなに忙しくても毎日ほぼ必ず何か本を読んでいる。実に平凡な趣味のようだけれど、旅以外で一番の生き甲斐が何かと訊かれたら読書と答える。そして、あらゆる読書体験の中でも、とりわけ旅本を読むのは至福の時だ。未見の地への憧れを募らせてくれたり、自分も行った気になったり。他の人たちがどんな旅をしてるのかにも興味がある。

ところが、近頃の旅本を取り巻く状況を見ると切なくもなる。ここでいう旅本とはガイドブックは除外する。旅行記やエッセイの類いだ。ガイドブックであっても、誰が書いたか分からない定型のシリーズものではなく、著者の顔が見えるような主観性の強いものは含む。書店の旅コーナーへ行ってみると、その種の本が以前と比べてグッと減っていると感じるのだ。

僕は時には編集者でもあるし、学生時代のアルバイトも換算するともう10年以上も本作りに携わってきた。今風の言い方をするなら「中の人」であったりもするから、こういった状況になってしまった理由はある程度察しがつく。一言でいえば「売れない」のだろう。いや、そこまで直截的な表現をするのは気が咎めるので、「手堅くない」商品だから、などと控えめに言っておこうか。

出版業界が厳しい局面を迎えていることは、仮に渦中にいないとしても想像はできるだろうか。斜陽産業だと言われたら、認めたくはないけれど、そうかもなと素直に認めざるを得ない。まったく売れないわけではないし、本にもよりけりだが、より売れる確率の高いものに流れるのは商売なのだから仕方ない。旅行記やエッセイは売れる確率の低いもの=手堅くないと判断されてしまったのだろうか。個人的には大ヒットせずとも、それなりに細々と続けていければという甘い考えも持っているが、次々と出版社が消えていく現状を鑑みるとそれを声高に叫ぶわけにもいかない。

ともかく、読みたいのに、新しい本がなかなか出ないのだ。

旅本の中で、今でもかろうじて元気なのは、たとえば韓国やハワイ関連の本。手を変え品を変え似たような内容が繰り返されているのは、単純に訪問者が一定数いるので、それなりに市場規模が見込めるからなのだと予想する。また地域に限らず(パリなどヨーロッパ関係が中心だが)多いのが、本自体がお洒落雑貨のような位置付けのもの。カフェっぽい本というか。とくにカラー写真を主体とし、見かけ上は洗練されたデザインで、インテリアの感覚でなんとなく本棚に置いておきたくなるようなやつ。じっくり読み込むというよりは、パラパラめくって雰囲気を楽しむような本。そういったものが別に悪いとは思わないし、僕自身も手がけたりしているので自戒の念を込めて書くが、あまりに多すぎる。

一方で、活字主体の旅本となると、選択肢は非常に限られてしまう。それも純粋な「旅行記」となると、本当に数えるぐらいしか新刊が出ていないと思う。寂しい現実に項垂れ、過去の名著などを引っ張り出してきて再読したりもするが、旅の内容自体の古くささは否めず、何かが違うと感じてしまう。数少ないながらも新刊が刊行されているのを書店で見つけたら、嬉々として手に取る。面白いものも、正直に言えば自分の感性には合わないものもある。でも、選択肢があるだけでも幸せなことで、これ以上減らないで欲しいとさえ願う。

無理にお洒落である必要はない。奇抜さはなくてもいい。さらに言えば、即効性のある役に立つ教えが書かれてなくてもいい。小説を読むような感覚で活字を追い、行間に想像を巡らせる。著者が描く旅に自分自身を投影し、時にハラハラし、時にドキドキし、しばしば考えさせられるようなもの。ファッションや情報収集ではなく、楽しむための読書体験として旅本が読みたい――。ずっとそう思っていた。

ないのであれば、ひとまずは自分でやってみよう。僭越ながら筆を執った。結果、出来上がったのが本書である。

旅を始めてから今年で10年になる。同時に旅のことを書き始めてからも10年だ。最初の旅、つまり世界一周新婚旅行当時はホームページに旅行記を発表していただけだが、やっていることは根本的には今と変わりない。節操なくあちこち出かけていって、駄文をあちこちに書き散らかしてきた。10年か――と冷静に回想すると、柄にもなく感慨に耽ったりもするが、本人としては別に深いことは考えずに本能のままに旅をしてきただけだ。

10年の集大成作品というつもりはないが、10年経った今の僕が書ける精一杯を本書に込めた。まったく売れないかもしれないと悲観的な想像も頭を過ぎるし、あまりに自分自身をネタにしすぎてしまったことへの羞恥心も拭えないのだが、もう出来てしまったので開き直ることにする。タイトルは『自分を探さない旅』に決まった。

     *     *     *

勢いに任せて長々と書いてしまったが、さらにくどくど説明するのも……と思うので、とりあえず帯のコピーと帯裏に書いてある「目次より」(本の見出しを一部抜粋したもの)を転載しておきます。

『自分を探さない旅』
バックパックを背負わない放浪。
34歳、冬。もっと旅がしたくて会社を辞めた。
まずはバンコク、インドへ。
そしてブータンで震災のニュースを知る――。
なぜ人は旅に出るのか? ”自分探し”って何?
旅について考え続けた”卒業旅行”の記録。

第一章 旅人はインドを目指す
三十路男の卒業旅行
若者の海外旅行離れって本当?

第二章 旅人の決断
ノマド志向の仕事場探し
旅人が見たアラブ革命

第三章 自分探しの聖地
103ヶ国旅してもまだやめない
単なる観光旅行でなぜいけない?

第四章 旅の終わりは突然に
3月11日、旅先で

第五章 それでも自分は探さない
好奇心の赴くままに

https://www.facebook.com/tomotripage/posts/318468818232054

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